東京高等裁判所 昭和47年(う)877号 判決
被告人 新田正輝
〔抄 録〕
所論は、原判決がその第一の一、二において、わいせつ図画頒布の事実を認定し、これに刑法第百七十五条前段を適用しているけれども、もともと「頒布」とは不特定または多数人に対し無償で交付することをいうのであるが、本件において頒布を受けたのは関根孝平という特定人であるから、特定人に対する無償交付は「頒布」ということはできない。これを頒布行為であるとした原判決は法令の解釈適用を誤まったもので、判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
よって案ずるに、わいせつ図画の頒布罪が成立するためには、わいせつ図画を不特定または多数人に無償交付することを要することは所論のとおりであるが、不特定または多数人に対してなす目的のもとに無償交付がなされるかぎり、特定の一人に対して二回の無償交付をなしたに止まる場合といえども、これを「頒布」行為というを妨げないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原判決挙示の判示第一の一、二関係の諸証拠を総合すると、本件わいせつ写真集は、中原定也にたのまれて、被告人が自分の分をも含めて三千部を凹版綜合印刷の高瀬営業部長に依頼して作成したものの一部であり、被告人はパチンコ店「牡丹」で同店々員関根孝平に対し八ミリのわいせつフイルムを賃貸したいと申し入れたことがあること、被告人が「牡丹」に来るとき、いつも黒皮製の鞄の中の紙袋に、わいせつブック、春画をもっていたこと、関根孝平は他の店員から、被告人が他の店員にもわいせつ物を売りに来たことがあると聞いたことがあること、被告人が関根孝平に交付したものと、同種のものを駒田矗士にも販売していること、などの諸事実が認められ、これらの事実を総合すると、被告人にはわいせつ図画を不特定または多数人に対して交付する目的があったと認定するのが相当である。このような目的のもとに関根孝平に対して本件図画を無償交付した以上、これを「頒布」行為と評価するに何ら間然するところはない。これと同旨に出た原判決には何ら所論のような法令の解釈適用の誤りはなく、論旨は理由がなく、採用できない。
(江碕 宮脇 桑田)